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Recursive
Flesh

身体の運動がAIを介して仮想身体を生成し、その仮想身体が音響・映像・電気刺激として物理身体にフィードバックする。身体は自らの動きによって不随意化され、制御の起点が消失する再帰的ループ。Fractal Fleshがネットワーク上に身体を分散させたのに対し、Recursive FleshはAIを介して身体を自己に回帰させる。

BODYAIVIRTUAL BODYFEEDBACKBODY

Daito Manabe — Studio Daito Manabe — 2026

概要

Fractal Flesh(1995)において、Stelarcの身体はインターネットを介してリモートの観客に筋電気刺激(EMS)で操られた。Ping BodyではインターネットのPing値が身体を不随意に振り付けた。Movatarではアバターが逆モーションキャプチャにより物理身体を支配した。これらの作品では、身体を操る力の起源は常に外部 — リモートの人間、インターネットデータ、ソフトウェアエージェント — にあった。

Recursive Fleshはこの構造を反転させる。身体を不随意化する刺激の起源を、身体自身の運動に置く。センサデータはAIによって自然言語で記述され、仮想身体のモルフォロジーに変換され、音響・映像・EMSとして物理身体にフィードバックされる。身体は外部の力によってではなく、自らの運動がAIを介して回帰することによって不随意化される。再帰的な閉ループの中で、身体は自分自身のHost Bodyとなる。

身体がAI仮想身体を駆動し、AI仮想身体が身体を駆動する。しかしFractal FleshやPing Bodyとは異なり、ここでは外部のエージェントは存在しない。身体を操る力は、身体自身の運動からAIを介して生成される。制御の起点を辿ると、それは常に自分自身に回帰する — 再帰的な因果の中で、主体は蒸発する。

SuperCollider Eurorack Claude API OSC CV/Gate EMS Virtual Body openFrameworks TouchDesigner

システム・アーキテクチャ

身体からAI仮想身体への変換パスと、仮想身体から物理身体へのフィードバックパスが閉じた再帰ループを形成する。Movatarではアバターから身体への一方向的な支配だったが、ここでは身体の運動が自身の制御信号の起源となる循環構造を持つ。

┌─────────────────────────────────────────────────────────┐ │ STELARC'S PHYSICAL BODY │ │ │ │ [Wearable Device] [Feedback Receivers] │ │ ICM-20948 IMU EMS electrodes │ │ FSR 402 Bone conduction │ │ Teensy 4.0 Spatial audio │ │ │ ▲ │ │ │ sensor data │ feedback │ │ ▼ │ signals │ └─────────┼──────────────────────────────┼────────────────┘ │ │ ▼ │ ┌─────────────────────────────────┐ │ │ STATE ANALYZER │ │ │ Raw data → Natural language │ │ │ Gesture phase detection │ │ └────────┬───────────┬────────────┘ │ │ │ │ ▼ ▼ │ ┌────────────┐ ┌──────────────────┐ │ │ DIRECT MAP │ │ AI INTERPRETER │ │ │ (Immediate)│ │ (Claude API ~5s) │ │ │ │ │ │ │ │ Sensor→CV │ │ NL → Musical │ │ │ No latency │ │ decisions │ │ │ │ │ NL → Body │ │ │ │ │ morphology │ │ └─────┬──────┘ └────────┬─────────┘ │ │ │ │ └────────┬────────┘ │ ▼ │ ┌─────────────────────────────────────────────────────────┐ │ VIRTUAL AI BODY │ │ │ │ 3D body model in virtual space │ │ AI-interpreted gesture, posture, morphology │ │ Rendered via openFrameworks / TouchDesigner │ │ │ │ ┌─────────┐ ┌──────────┐ ┌──────────────┐ │ │ │ VISUAL │ │ SOUND │ │ SOMATIC │ │ │ │ OUTPUT │ │ OUTPUT │ │ OUTPUT │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ Body │ │ CV Engine│ │ EMS signals │ │ │ │ render │ │ 10ch DC │ │ Haptic pulse │ │ │ │ Project │ │ Eurorack │ │ Bone audio │ │ │ └────┬────┘ └────┬─────┘ └──────┬───────┘ │ └────────┼────────────┼───────────────┼───────────────────┘ │ │ │ ▼ ▼ ▼ ┌──────────┐ ┌──────────┐ ┌──────────────┐ │PROJECTION│ │ EURORACK │ │ BODY │ │ mapping │ │ + Spatial │ │ FEEDBACK │──→ (loop) │ on body │ │ speakers │ │ EMS/haptic │ └──────────┘ └──────────┘ └──────────────┘

仮想AI身体

Stelarcが「現代のキメラはMeat, Metal and Codeの混成体である」と述べたように、仮想AI身体はこのキメラの最新の展開である。Prosthetic Headが会話的AIエージェントとして頭部を拡張したのに対し、仮想AI身体は身体全体のAI的ダブルとして機能する。センサデータをそのまま再現するのではなく、AIが解釈・変容させた「もうひとつの身体」として存在する。

しかしProsthetic Headや Third Handと決定的に異なるのは、この仮想身体が物理身体に因果的な力を持つ点である。仮想身体の状態(ポーズ、密度、速度、形態変化)が音響パラメータ、映像エフェクト、EMS信号を決定し、Stelarcの肉体に直接作用する。非物質的でありながら因果的に有効な義体 — Stelarcの「拡張された身体」の概念を、物理的実体なしに実現する。

Movatarではアバターが一方的にホスト身体を支配した。Recursive Fleshでは、身体が仮想身体を生成し、仮想身体が身体を変容させる。一方が他方の原因であり結果でもある因果の循環 — 再帰的構造の中で、ホストとパラサイトの区別は無効化される。

入力:物理身体 → 仮想身体

身体データの解釈

センサデータ(向き、圧力、速度、震え)はAIによって自然言語で記述され、その記述が仮想身体のモルフォロジー、ポーズ、動態を決定する。直接マッピングでは「角度=関節角度」だが、AI解釈では「探索的な上昇=全身の伸張+密度低下」のような意味的変換が行われる。

出力:仮想身体 → フィードバック

仮想身体からの信号生成

仮想身体の状態変化がフィードバック信号のソースとなる。形態の変化は音響テクスチャを、動きの速度はリズミックパターンを、身体の密度はEMS強度を制御する。仮想身体が「意思」を持つかのように振る舞い、Stelarcの身体に働きかける。

{
  "virtual_body": {
    "morphology": "elongated, dispersed",
    "posture": "reaching upward, limbs extended",
    "density": 0.3,
    "velocity": 1.8,
    "tremor": 0.15,
    "phase": "expansion"
  },
  "interpretation": "The physical body's sustained
    vertical gesture with micro-tremor suggests
    a reaching beyond — the virtual body responds
    by dispersing, becoming translucent, extending
    beyond its own boundaries."
}

フィードバック・システム

Fractal FleshやPing Bodyでは、EMSによる不随意運動が単一のモダリティで身体に作用した。Recursive Fleshではフィードバックを三つのモダリティに拡張する。Re-Wired/Re-Mixedが視覚と聴覚を外部に分散させたのに対し、ここでは三つのモダリティすべてが仮想身体から身体に向かって収束する。

体性感覚

EMS / 触覚

仮想身体の動態に応じた電気筋肉刺激(EMS)。仮想身体が収縮すればStelarcの筋肉も収縮し、仮想身体の震えが実際の微細な筋収縮として再現される。身体は直接的に「動かされる」。

聴覚

音響フィードバック

仮想身体の状態がモジュラーシンセサイザーのCV信号を生成し、空間音響として身体を包囲する。低周波の振動は体感的に身体を揺さぶり、高周波のテクスチャは知覚を鋭敏にする。骨伝導デバイスによる直接的な音響伝達も行う。

視覚

映像フィードバック

仮想身体の映像をStelarcの身体に直接プロジェクションマッピングする。仮想身体のパルスが光のパルスとして身体表面に投影され、Stelarcの視界に映り込む。身体の上に「もうひとつの皮膚」が重なる。

Stelarcは「身体はもはや純粋に自律的ではない」と述べてきた。Recursive Fleshはこれを文字通り実現する。三つのモダリティが同時に作用することで、身体は自分自身の運動から生成されたフィードバックによって自分自身の制御を手放す。外部からの支配ではなく、自己から発した力による不随意化 — これはInvoluntary Bodyの再帰的な更新である。

フィードバック・ループ

フィードバックが身体に変化を引き起こし、その変化がセンサに検出され、新たなAI解釈を生み、仮想身体が更新され、再びフィードバックが発生する。この閉じたループが自走し始めたとき、Stelarcの意図とAIの判断は区別できなくなる。

Stelarc moves → Sensors detect → AI interprets ↑ │ │ ▼ Body responds ← Feedback sent ← Virtual body (involuntary) (EMS+Sound+Visual) updates state

二重時間構造

Ping Bodyではインターネットのレイテンシが時間構造を決定した。Recursive Fleshでは、AIの解釈に要する約5秒の遅延が第二の時間層を生む。即時的な直接マッピングとAIの遅延解釈 — この二つの時間スケールが仮想身体とフィードバックを二重に構成する。

即時応答

直接マッピング

センサデータから仮想身体の基本動態とCV信号への即時マッピング。レイテンシなし。指のジェスチャーと仮想身体の動き、音の間の直接的な結合を保持する。

センサ 出力先 振る舞い
ピッチ(垂直傾斜) V/Oct + 仮想身体高度 110–2200 Hz + 身体伸張
ロール(左右傾斜) パン + 仮想身体傾斜 空間配置 + 形態変化
FSR圧力 ゲート + 仮想身体密度 アタック + 凝縮/膨張
変化速度 LFO + EMS強度 モジュレーション + 筋収縮
〜5秒サイクル

AI解釈レイヤー

約5秒ごとにAIが身体の状態を読み取り、仮想身体のモルフォロジーと音楽的判断を同時に生成する。仮想身体の形態変化、コードボイシング、テクスチャの密度、フィードバック強度が一括で決定される。

{
  "virtual_body": {
    "morphology": "condensed, pulsing",
    "limb_extension": 0.3,
    "density": 0.85
  },
  "sound": {
    "v_oct": ["C4", "Eb4", "G4", "Bb4"],
    "cutoff": 0.75,
    "reverb": 0.45
  },
  "feedback": {
    "ems_intensity": 0.4,
    "ems_pattern": "pulse_sync",
    "visual_projection": "dense_particles"
  }
}

身体は二度語る — 一度は直接的な電気結合を通して(即時)、もう一度はAIの言語的解釈を通して(遅延)。仮想AI身体は二度応える — 即時的な動態変化と、遅延的なモルフォロジー変容。Fractal Fleshにおけるネットワーク遅延が偶発的だったのに対し、ここでの遅延はAIの「読解」に要する時間であり、意味論的な厚みを持つ。

言語レイヤー

Stelarcは「身体はテキストのように読まれうる」と長年主張してきた。Recursive Fleshはこれを文字通りシステムに実装する。身体と仮想AI身体の間に自然言語を挿入し、AIが身体のジェスチャーをテキストとして記述する。この意味論的ボトルネックが、Ping BodyやParasiteにおける直接的な信号変換を「解釈」に変える。AIは身体を翻訳するのではなく、身体を読む。

自然言語出力例

"Right index finger: pitch 68° (near vertical), ascending at 12°/s.
 Roll -15° (slight left tilt), oscillating ±3° at ~2Hz.
 Pressure 0.45 (moderate, intermittent pulses).
 Gesture phase: sustained elevation with micro-tremor.
 → Virtual body: extend upward, disperse density,
   introduce tremor in extremities.
 → Feedback: gentle EMS pulse in forearm (0.3),
   low-frequency spatial drone, projection: ascending particles."

テキストは三つの役割を担う。AIへの入力としての身体記述、仮想身体のモルフォロジー指示、そしてパフォーマンス中に投影される可視ナレーション。観客は、AIが身体をどう「読み」、仮想身体をどう「動かし」、Stelarcにどう「返す」かを、テキストを通じて追体験する。

ハードウェア

コンポーネント 仕様 役割
Stelarcデバイス CPU Teensy 4.0 (ARM Cortex-M7, 600MHz) センサデータ取得
IMUセンサ ICM-20948 (9DoF: accel/gyro/mag) 指の向きトラッキング
感圧センサ Interlink FSR 402 圧力/グリップ検出
CVインターフェース MOTU UltraLite mk5 (10ch DC-coupled) PC → Eurorack CV出力
シンセシス Eurorack: Poly VCO (4v), VCF, LFO, Reverb 音響生成
EMSモジュール カスタムEMSコントローラ + 電極パッド 筋電気刺激フィードバック
骨伝導デバイス 骨伝導トランスデューサ 身体直接音響伝達
プロジェクション 高輝度プロジェクタ + トラッキングカメラ 身体への映像投影
AI処理 MacBook M4 (64GB) + Claude API 自然言語解析・仮想身体生成・フィードバック制御

ソフトウェア・スタック

レイヤー 技術 用途
シミュレータ Browser (HTML/JS) + WebSocket 開発用仮想デバイス
状態解析器 Python / Node.js センサ → 自然言語記述
AIエンジン Claude API (Anthropic) 身体解釈 → 仮想身体生成 → フィードバック決定
CVエンジン SuperCollider MOTU経由DC信号 + EMS制御信号
仮想身体エンジン openFrameworks / TouchDesigner 3D仮想身体レンダリング + プロジェクションマッピング
通信 OSC + WebSocket プロセス間データフロー

開発フェーズ

01

シミュレータ&基盤パイプライン

  • ブラウザベースIMU/FSRシミュレータ
  • 状態解析器: センサデータ → 記述テキスト
  • Claude API統合: テキスト → CVパラメータ + 仮想身体指示
  • SuperCollider CVエンジン: JSON → 10ch DC出力
02

仮想AI身体の構築

  • 3D仮想身体モデルの設計・実装
  • AI解釈→モルフォロジー変換パイプライン
  • リアルタイムレンダリング(oF/TD)
  • 直接マッピング+AI解釈の二重駆動
03

フィードバック・システム

  • EMSモジュール統合: 仮想身体→筋肉制御
  • 空間音響設計: 身体を包囲するサウンドフィールド
  • プロジェクションマッピング: 仮想身体→実身体表面
  • 骨伝導音響: 身体内部への直接音響伝達
04

統合&パフォーマンス

  • 実Stelarcデバイスとの接続
  • フィードバックループの安定性チューニング
  • 閉ループでのリハーサル: 自走するフィードバック
  • パフォーマンス本番+ドキュメンテーション

コンセプチュアル・ノート

Fractal Flesh(1995)は身体をネットワーク上に分散させ、リモートの観客が身体を操る構造を提示した。Ping Body(1996)はインターネットのデータストリームに身体の運動を委ねた。Movatar(2000)はアバターが逆モーションキャプチャで物理身体を支配する構造を実現した。Recursive Flesh(2026)はこれらの系譜を踏まえた上で、根本的に異なる問いを立てる:身体を操る力が身体自身から再帰的に生成される場合、制御の主体はどこに存在するのか。

Stelarcは「Multiple Agency(複数のエージェンシー)」の概念を通じて、身体が複数の力に同時に駆動される状態を探究してきた。Recursive Fleshではそのエージェンシーが外部からではなく、身体自身の運動→AI解釈→仮想身体→フィードバックという閉ループから発生する。身体は「Meat, Metal and Code」のキメラであるだけでなく、自己を駆動する再帰的システムとなる。

Third Hand(1980)が物理的な義肢で身体を拡張し、Prosthetic Headが会話的AIで知性を拡張し、Ear on Arm(2007)が生体組織で解剖学を再構築したのに対し、Recursive Fleshの仮想AI身体は非物質的でありながらEMS・音響・映像を通じて因果的な力を持つ。Stelarcの「Obsolete Body」が技術による拡張を求めてきた歴史の中で、本作はAIによる拡張 — 身体がAIを介して自分自身と対話する構造 — を提示する。

観客が目撃する四つのストリーム

1
物理身体

Stelarcの肉体 — ジェスチャーと不随意運動の混在

2
仮想AI身体

AIが解釈・生成するデジタル空間上の身体、リアルタイムに可視化

3
テキスト

AIによる身体の読解と仮想身体への指示、リアルタイムに投影

4

即時的な直接CV、遅延的なAI解釈、そしてStelarcの身体への音響フィードバック

Fractal Fleshは身体を分散させた。Ping Bodyは身体をデータに委ねた。Movatarはアバターに身体を支配させた。Recursive Fleshは身体を自己に回帰させる。再帰ループが自走し始めたとき、身体はもはやHost BodyでもParasiteでもない — 身体は自分自身のフィードバックの中に溶解する。