2018年のメッセージ
イベント冒頭で紹介されたのは、2018年4月にManabeがCristóbalへ送った一枚のメッセージだった。
「Runwayのベータテストに参加させてほしい」
まだRunwayが一般公開される前、正式ローンチ前のクローズドベータ時代のやり取りだ。当時、機械学習を使った映像やアート制作に関わっていた人間にとって、Runwayの登場はかなり衝撃的だった。
Report
クリストバル・バレンズエラ来日と、日本の生成AIコミュニティの現在地
2026年5月、RunwayのCEOであるCristóbal Valenzuelaが来日したことをきっかけに、東京・恵比寿のコミュニティスペース「FIL」にてトークイベントが開催された。
FILは、アート、音楽、AI、ロボティクス、映像表現などが交差する実験的なコミュニティスペースだ。今回のイベントでは、Daito ManabeとCristóbalの対談を中心に、生成AIとクリエイティブツールの未来、日本コミュニティの可能性について語られた。
イベント冒頭で紹介されたのは、2018年4月にManabeがCristóbalへ送った一枚のメッセージだった。
「Runwayのベータテストに参加させてほしい」
まだRunwayが一般公開される前、正式ローンチ前のクローズドベータ時代のやり取りだ。当時、機械学習を使った映像やアート制作に関わっていた人間にとって、Runwayの登場はかなり衝撃的だった。
それ以前は、機械学習を扱うには自分でGPUサーバを立てるか、クラウド環境を設定する必要があった。Google Cloudを使えば可能ではあったが、環境構築、依存関係、CUDA、ドライバ周りなどが複雑で、多くのクリエイターにとって現実的ではなかった。
Runwayは、その煩雑さを消した。モデルのセットアップ、環境構築、学習、推論。そういった技術的ハードルを意識させず、「機械学習を使う」という行為そのものをクリエイターに開放した。
もちろん、自分たちで同じようなツールを作ることはできた。しかし重要なのはそこではなく、「一般の人が触れるべき形」に落とし込まれていたことだった。当時、「これが未来の形だ」と感じたのを今でも覚えている。
対談の中で特に印象的だった話のひとつが、CristóbalがRunwayを始めるきっかけについてだった。彼に大きな影響を与えたのは、Kyle McDonaldがアップロードした一本の映像作品だったという。
当時は、「インタラクティブからコグニティブへ」という言葉で語られることもあった時代だ。それまでのコンピュータビジョンは、「位置を追跡する」「動きを認識する」といった物理的情報の処理が中心だった。
しかし機械学習によって、映像や音に対して「意味」を解析することが可能になり始めていた。つまり、「何が映っているか」ではなく、「それが何を意味しているのか」を扱えるようになった。これは、インタラクションデザインやメディアアートにとって極めて大きな転換点だった。
Manabe自身も当時、Kyleと一緒にプロジェクトを進めていたこともあり、その話には強く共感したという。ちょうど機械学習を使ったアートプロジェクトに熱中していた時期であり、「時代が変わった」という感覚を共有していた。
Kyle McDonaldの話に続いて、会場に来る前に一緒に食事をしていた関和明がマイクで話した10秒程度の言葉をもとに、1分の映像をワンショットで生成した実験も紹介された。
入力は、短いiPhoneの音声録音と「この音声をもとに1分のコメディ映像を作る」というシンプルな指示だけだった。そこからCodexとカスタムスキルが、文字起こし、内容の解釈、短いコメディ脚本への展開、シーン分割、Runway Gen-4.5用プロンプト生成、API経由での動画生成、クリップのダウンロード、日本語字幕PNGのレンダリング、字幕焼き込み、全セグメントの連結、最終メディア検証、YouTube Studioへのアップロードまでを自動で実行した。
Runway Gen-4.5 APIの生成尺に合わせ、各15秒のシーンは10秒と5秒のセグメントに自動分割され、最終的な60秒の映像は8つの生成セグメントから構成された。完成映像は1280x720、24fps、H.264。準備された脚本や絵コンテ、手作業の編集タイムラインからではなく、何気ない音声メモと一つの指示だけから映像制作全体を組み立てた点が、この実験の要点だった。
生成された映像はかなりシュールで、会場では笑いが起きていた。
なぜRunwayが今、日本市場を重視しているのかについても興味深い話があった。Cristóbalによると、日本は現在、Runwayの世界第三位のユーザー数を持つ国になっているという。
さらに、Runway主催のAIフィルムフェスティバルでも、日本人クリエイターが上位入賞するケースが非常に多いらしい。彼は、日本のユーザーコミュニティには独特の創造性と熱量があると語っていた。
RunwayのAI Film Festivalは、AIを用いた映像表現を世界中から集める場として始まり、2026年はAIF(AI Festival)としてFilm、Design、New Media、Fashion、Advertising、Gamingまで対象を広げている。日本のクリエイターがその中で存在感を示していることも、日本コミュニティの厚みを示す一例だ。
一方で、まだ世界に知られていない才能も非常に多い。そのため、今後は日本支社を通じて、ローカルコミュニティとの接点を増やし、日本独自のカルチャーやクリエイティブシーンとの関係をより深めていきたいという話もしていた。
最後に、会場で最も盛り上がった話題のひとつが、動画生成AIの今後についてだった。「次の大きなブレークスルーは何か?」という質問に対し、Cristóbalは、8〜10ヶ月程度でリアルタイム生成に関するかなり大きなものを公開できると思う、と話していた。
もちろん詳細はまだ非公開だが、リアルタイム映像生成やインタラクティブ生成の領域が、今後急激に進化していくことを強く感じさせる内容だった。
リアルタイムの実験としては、Runway Charactersのような取り組みもすでに公開されている。これは、GWM-1を基盤に、会話できるカスタムキャラクターをリアルタイムのビデオエージェントとして構築するAPIだ。
生成AIは、すでに単なるツールではなく、映像、映画、音楽、インタラクション、ライブ体験そのものの構造を変え始めている。
今回のFILでのイベントは、その変化が単なるテクノロジーの進歩ではなく、新しいクリエイティブコミュニティの形成でもあることを実感させる夜だった。今後のRunway、そしてそこから生まれる新しい表現が非常に楽しみだ。
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