Selected Works
HFT / Bitcoin / Market Data / Regulation

真鍋大度の金融作品と法の抜け穴

株式市場の高速取引、制度化される前のビットコイン市場、そしてNFTをめぐる投機的な熱狂。真鍋大度とRhizomatiksの金融作品は、技術が先に社会実装され、法と制度が後から追いつくまでの短い時間差を、音、映像、取引システム、データ可視化として露出させた。

2013 - 2021 traders / chains / Gold Rush Automation as social material
traders 2013 video still with tablet interface and market visualization
traders, 2013 / HFT system and audiovisual market interface
chains 2016 video still
chains, 2016 / blockchain and automated trading
traders 2018 video still
traders, 2018 / visualization without live automated trading

Premise

ここで扱う金融作品は、AIが一般語になる前の「自動化」への関心から始まっている。人間の活動がアルゴリズムへ置き換わる時代を、すでに市場の中心で実装されていた高速取引から読み解いた。

2013年、真鍋大度は「世の中のあらゆるものが自動化され、人間の活動が人工知能に置き換わっていく」という時代の流れに強く関心を寄せていた。当時はまだ「AI」という言葉が現在ほど一般化しておらず、「人工知能」や「自動化」といった概念で語られることが多かった。

その象徴的なモチーフとして注目したのが、すでに広く実用化されていた株の自動取引、特に High Frequency Trading だった。HFTは、人間の判断速度を超えた注文、キャンセル、再注文によって市場の板そのものを操作対象にする。真鍋はこの速度、特権的な回線、法制度の未整備が重なる領域を作品化しようとした。

重要なのは、これらの作品が金融取引を単に可視化しただけではない点にある。取引システム、観客インターフェース、専用回線、市場データ、行政指導、そして後年の法整備までが、ひとつの作品の射程に入っている。

System
JavaからC++へ書き換えた独自HFTシステム

QUICKの協力を得て、可視化・可聴化に向けて半年かけて最適化された。

Capital
300万円を使う実取引計画

観客のiPadゲーム入力が自動取引パラメータへ反映される構造が準備された。

Shift
実取引からシミュレーションへ

金融庁から風説の流布や相場操縦に当たる可能性を指摘され、展示形式が変更された。

Works

株式市場、ビットコイン、フラッシュ・クラッシュ、NFTバブル。関連作品は、市場を「データの流れ」としてだけでなく、「制度の遅れと投機の熱量が見える場所」として扱っている。

traders 2013 video still
2013 Tokyo Stock Exchange data HFT system

traders / 東証接続と実取引の断念

真鍋は2013年、東京都現代美術館で株の自動取引システムを作品として展示しようとした。HFTの専用回線やシステムが限られた主体にしか利用できないこと、そして高速注文とキャンセルの反復が市場の板に揺らぎを与えることに着目した。

QUICKから特別に回線使用の許可を得て、Javaで書かれたシステムをC++に書き換え、可視化・可聴化に最適化した独自のHFTシステムを開発した。展示では300万円を資金として実際の市場で取引を行い、その動きを音と映像に変換する計画だった。

  • 観客はiPad上のゲームを通して取引パラメータへ間接的に参加する。
  • 金融庁から風説の流布や相場操縦に当たる可能性を指摘され、実取引は取り下げられた。
  • 実際の取引データを可視化するシステムは特殊回線を通じて東証と接続され、HFTの現実を示す構造は維持された。
chains 2016 video still
2016 ZKM Karlsruhe Bitcoin / blockchain

chains / 暗号資産の法的空白

2016年、カールスルーエで発表された chains では、ビットコインを用いた自動取引とブロックチェーンの可視化が扱われた。当時の日本では、暗号資産交換業の登録制はまだ始まっておらず、暗号資産市場は株式市場ほど制度化されていなかった。

真鍋は、東証で実現できなかったHFTの構造をビットコイン市場へ置き換えた。簡易的なアービトラージや複数アルゴリズムによる自動売買を実際に走らせ、取引の可視化に加えてビットコインのトランザクション構造も提示した。

  • 参加アーティスト: Daito Manabe, Yusuke Tomoto, 2bit Ishii.
  • ZKMの紹介文では、ブロックチェーン研究の可視化と自動取引システムを含む作品として説明されている。
  • ビットコインが社会実装されながら、国ごとに扱いが分かれていた時期の作品である。
traders 2018 video still
2018 Visualization only Flash crash

traders 2018 / 自動取引なし、可視化のみ

Daito Manabe + You Tanaka + Kenichiro Shimizu + Shogo Kawata (GORAKU) + Takao Inoue による2018年版は、2016年10月7日の金融データをもとに音と映像を生成した作品である。

2016年10月7日(金)午前8時4分、英ポンド/米ドルは突如急落した。この急落については「ファットフィンガー」、アルゴリズム取引、高頻度取引による連鎖反応など、複数の推測がなされたが、決定的な原因は特定されていない。

  • 2010年5月6日の米国株式市場の急落以降、この種の瞬間的暴落は「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれるようになった。
  • 2018年版は実取引を行わず、金融データを可視化・可聴化する作品として構成された。
  • AI主導の自動取引が高度化した情報社会の脆弱性を、観客が体感できる形式へ変換している。
Gold Rush installation image
2021 Rhizomatiks NFT / OpenSea data

Gold Rush / NFTバブルをめぐる作品

“Gold Rush” - Visualization + Sonification of Opensea activity は、Rhizomatiks名義で発表された真鍋大度のNFT関連作品である。2021年3月11日午前10時(EST)、BeepleのNFTがChristie'sでMetaKovanに69,346,250ドルで落札された前後1日のOpenSea event dataを用いている。

本作は、CryptoArtとNFT Artがアートワールドへ一気に流入した象徴的な瞬間を、機械学習技術(Convolutional Neural Network, t-SNE)とデータビジュアリゼーション、サウンドによって振り返る。NFTを巡るバブルが、所有証明、希少性、投機、市場拡張を同時に生み出した状況そのものが作品の対象になっている。

  • 発表: 東京都現代美術館「ライゾマティクス_マルティプレックス」、2021年。
  • Concept, Sound design, Technical direction: Daito Manabe.
  • Visual design and programming: Futa Kera. System Programing, Serverside Design: 2bit. Serverside Programing: Kosaku Namikawa.

Law

作品の核は、違法行為の実行ではなく、技術と制度の時間差を作品として可視化することにあった。以下は、作品文脈を理解するための制度整理であり、法律助言ではない。

Stock market / 2013 before

高速取引をめぐるグレーゾーン

見せ玉そのものは金融商品取引法上の相場操縦規制の対象だが、2013年当時、HFT業者の登録制や、コロケーション、専用回線、アルゴリズム戦略を前提とした監督枠組みは未整備だった。真鍋の作品は、その制度の遅れと特権的アクセスを同時に扱った。

Stock market / 2018

高速取引行為者の登録制度

平成29年金融商品取引法改正により、2018年4月1日から株式等の高速取引を行う者に対する登録制度が導入された。取引戦略、システム管理、注文・取引記録、当局への報告などが制度の対象になった。

Crypto assets / 2013 - 2016

制度化前のビットコイン市場

2016年の chains が扱ったビットコインは、すでに社会実装されていたが、交換業者の登録制度や市場監視は現在ほど整備されていなかった。作品はこの法的空白を、ブロックチェーンの構造と自動取引の実行可能性を通して示した。

Crypto assets / 2017 - 2020s

登録制と不公正取引規制

2017年4月1日から暗号資産交換業の登録制度が始まった。その後、2020年5月1日施行の制度改正で「仮想通貨」は法令上「暗号資産」へ呼称変更され、価格操作などの不公正取引への規制も導入された。2020年代には市場監視、売買審査、登録事業者への監督がさらに強化されている。

NFT / 2021

所有証明と投機の可視化

Gold Rush は、NFTを「改ざん困難な所有証明」として語る技術的説明と、Beeple落札を契機に加速した投機的な熱狂を同時に扱う。OpenSeaのイベントデータを使うことで、作品そのものよりも、市場参加者の移動、価格、注目、流動性が可視化の対象になった。

Summary

アートとしてのハッキング

2013年の株式取引作品、2016年のビットコイン取引作品、2021年のNFT作品は、いずれも「法や制度がまだ追いついていない領域」を突いたアートだった。規制の狭間を作品の素材にしながら、実際の取引、市場データ、観客参加、行政判断、投機的熱狂を同じフレームに置いた点に意味がある。

これらの作品は、技術と法規制のタイムラグを暴き出す「アートとしてのハッキング」であると同時に、社会変化を刻む記録でもある。市場は抽象的な数値ではなく、コード、回線、規制、身体、観客の入力が交差する場として現れる。

Credits

作品ごとの主要クレジットと参照リンク。

chains
Daito Manabe, Yusuke Tomoto and 2bit Ishii. Presented at ZKM | Center for Art and Media.
traders 2018
Daito Manabe + You Tanaka + Kenichiro Shimizu + Shogo Kawata (GORAKU) + Takao Inoue.
Gold Rush
Concept, Sound design, Technical direction: Daito Manabe. Visual design and programming: Futa Kera. System Programing, Serverside Design: 2bit. Serverside Programing: Kosaku Namikawa.
Media
Video stills and installation images are taken from the linked YouTube records, Rhizomatiks work pages, and local archive assets.

Sources

作品映像、Rhizomatiks/ZKM掲載情報、金融庁・JPX・CFTC/SEC・Bank Underground の公開資料を参照した。

AI Reference Surface

関連する参照ページ

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